鼠径ヘルニアとは何か
鼠径ヘルニアは、人間の体の腹部にある筋肉の弱い部分で発生する状態です。この部分は筋膜という薄い組織が重なった構造になっており、内部からの圧力が加わることで外側に袋状に膨らむことがあります。この膨らんだ袋の中に腸管などが入り込み、外部から出っ張って見えるのが鼠径ヘルニアです。
この状態の診断は、ほとんどの場合触診で行います。触診でわからない場合や非常に小さなヘルニアは、CT検査で確認します。 鼠径ヘルニアが生活に与える影響としては、特に嵌頓と呼ばれる状態が重要です。
嵌頓とは、腸がヘルニアの袋の中にはまり込み、元に戻らなくなる状態を指します。
これを放置すると、腸が腐ってしまう危険があります。そのため、早急に腸を元に戻す処置が必要で、時間が経過すると手術で腸を切除しなければならないこともあります。
手術の必要性とタイミング
鼠径ヘルニアにおける手術の必要性は、特定のケースにおいて絶対的です。特に嵌頓を起こした場合、時間が経過するほど危険性が増します。嵌頓とは、腸管がヘルニアの袋の中にはまり込み、戻らなくなる状態を指します。目安として、3時間以上経過すると腸管が腐り始めるリスクが高まり、無理に戻すと腐敗した部分が体内に流れ込み、ショック状態に陥る可能性があります。こうした場合には、腸管の切除を伴う手術が必要となります。
また、ヘルニア自体を手術以外で治すことはできません。そのため、治療を希望する場合は手術が不可欠です。
放置しても自然に治ることはなく、むしろ悪化する可能性があるため、基本的には緊急手術が必要ない場合でも待機的に手術を行うことが推奨されます。
主な手術方法の紹介
鼠径ヘルニアの手術方法にはいくつかの種類があります。昔から行われていた方法として、自身の組織を使ってヘルニアの穴を縫い合わせる手術がありましたが、現在の主流とは異なります。 現在主流となっているのは、人工のメッシュを使用してヘルニアの穴を塞ぐ手術方法です。
この方法では、メッシュという人工物を用いて穴を物理的に覆い、再発を防ぎます。特に近年増えているのは、腹腔鏡手術と呼ばれる方法です。
この手術では、お腹の内側からヘルニアの穴にメッシュを配置します。腹腔鏡手術は、従来の手術方法に比べて回復が早く、術後の再発が少ないため、非常に人気があります。
手術の効果とリスク
鼠径ヘルニアの手術の効果は基本的に即日現れますが、再発率についても考慮する必要があります。腹腔鏡を使ったメッシュを用いた手術方法では、再発率は約2%とされています。これは、従来の方法(上から手術する方法)の再発率が約10%と報告されているのに比べて非常に低い数字です。そのため、腹腔鏡手術がより効果的とされています。
手術後の注意点としては、すぐに腸が正常な位置に戻りますが、手術部位が完全に固定されるまでには時間がかかります。
そのため、手術後しばらくはお腹に大きな負担をかける行動を避けることが推奨されます。具体的には、手術後約1ヶ月間は、腹圧をかけるような活動を避けることが重要です。
再発の可能性はゼロではなく、再発した場合には再度手術が必要になることもあります。手術の成功率が高いとはいえ、適切なアフターケアが再発防止には欠かせません。
手術後のフォローアップ
鼠径ヘルニアの手術後のフォローアップは、基本的に経過観察が重要です。腹腔鏡手術を行った場合、傷は5ミリ程度の小さな傷が2箇所と、1センチ程度の傷が1箇所となります。
感染症を引き起こさなければ、1〜2ヶ月で傷はほぼ治癒します。 また、鼠径ヘルニアの再発を防ぐためには、腹圧を過度にかけないことが重要です。これに加えて、筋肉を強化することも再発予防には効果的です。
ただし、過度な運動は逆効果となる可能性があるため、内側の筋肉(インナーマッスル)を適度に鍛えることが推奨されます。 一度鼠径ヘルニアを経験した人は、再発のリスクがあるため、腹圧をかけるような行動を避けることが最も重要です。